今週のお題「怖い話」

今週のお題は怖い話。田舎暮らしを始めて31年怖い話にはたくさん出会った。夏だからやはりこれかなー。

32年前田舎暮らしがしたくて地図を頼りに、海岸に国道が沿うてない過疎と思われる場所、温暖なところ、ミカンが採れるところなど色々と条件を出し合って車で見て回った。和歌山愛媛高知長崎。和歌山で決まりかけたけど折り合いが合わなくなり旅を続けてここに来た。小高い単峰の⛰山を背負った空き家らしい家が目に止まり2人共にそそられる風景に誘われる様に車を空き家への支線に進めた。すぐに家の中からおばあさんが出てきたので慌ててバックしたら側溝にタイヤがはまってしまった。その様子を見たおばあさんは家の納屋に戻り板や柱持って来て頭がまだほうけている運転手の相方にアレコレ指示を出して、あんたばかりじゃなかと何人もここで落ちとるよと相方を励ましなだめながら車を上げて納屋から持ってきたおばあさんの車上げキット柱と板をちゃんと相方に仕舞いさせ言った。あんた達は見かけん顔だけどどこの息子や?お世話になった事でありかなり詳しく説明をした。するとおばあさんは自分の顔の前で手を押し出す様に振って、ダメダメ田舎暮らし、農業をやりたい、無理だみんな食えなくて都会に出ていっているんだ。まあ昼飯でも食って帰りなー。私達は断るとおばあさんは言った。私には息子も娘もいて全員都会に行っている都会の人達に親切にされて暮らしている、だから私は都会の人に子供達のお礼のつもりたい食っていけ。太刀魚の三枚におろしたみりん干し白いゴマが振ってあった、自分で打って取ってきた地カキにアオサとキビナゴの入ったお吸い物、一人暮らしのおばあさんがしっかり暮らしているとわかる手作りのものだった。帰り際に本当に農業をやりたいんだったら近くの集落のあの家に行って話してみたらいいと助言を頂いた。おばあさんの助言ピッタリではないけれどこの土地に住むことが出来た。

このおばあさんとは本当に親しくなって野菜の作り方や地域の様々なルールや文化を教えてもらい私達は車に乗せて病院や親戚の家に連れて行ってあげたりした。おばあさんはもっと先で私がダメになった時手伝いに来てなと約束してまでいたけど、いざそうなってみると親戚の人達が面倒を見るので全くの他人の私達は近付けなくなった。

おばあさんの家はうちの農園から遠くに見える。仕事をしながらおばあさんは朝ごはん食べたかなーどうしてるかなーと思いつつ仕事の続きをしているとスーと背中を触られた感触がする、振り返っても誰もいない背中が冷たい。ある時腕を軽く触られた様な気がしたヒンヤリした風がそう感じさせるのだろうと考え直した。おばあさんの家の方を見ながらおばあさんに会いに行きたいなー、あんな約束したんだから一度は顔が見たいなーと思いつつ体の向きを返して仕事の続きにあるき出すと左腕をガツンとつかまれた、腕の骨が痛むくらい強くにぎられた。指の骨を感じた。しかし誰も周りにいなかった。

私は思いきって親戚の人におばあさんはどうしてるかなと聞いた。都会の子供の所に行ったけど亡くなったと。鶏小屋の日除けに榎木を数本生やしている、枝が年々延びておばあさんの家を隠してしまった。彼女からのコンタクトは無くなった。今はただ青い空に白い雲蝉が鳴いてばかりである。